純資産価額方式における勘定科目の処理ポイント(3)             


  定時株主総会前と後での取扱い

 事     例  3

・当社
(3月決算)の平成22年3月期の事業年度に係る定時株主総会(平成22年5月25日開催)において承認を受けた剰余金の配当、及び役員賞与金の内容は次のとおりであった。
   
     株主配当金
(年10%)    10,000千円
     代表取締役A氏への賞与金   20,000千円

     上記は、平成22年6月30日支払い

・上記の場合に、当社の株主
(100%所有)であり代表取締役であるA氏に、

     
 @平成22年6月10日に相続開始があった場合と

      A平成22年4月10日に相続開始があった場合と


で株式の評価に差異が生ずるのか。又

      
@仮決算を実施した場合における場合と

      A直前期末における資産及び負債の金額を基に計算した場合と


で株式の評価に差異が生ずるのか

解            説


課税時期が6月10日の場合

***亡くなった日が株主総会後の場合***
課税時期
平成22年6月
10日
株式評価上の負債の取扱い A氏の相続財産の構成
仮決算基準によった場合
・株主配当金、取締役賞与金を負債として計上



・株式
(純資産価額計算において配当金及び賞与金が負債として計上されて評価されたもの)

・未収配当金(未収金銭債権)

・未収賞与金(未収金銭債権)
直前期末日基準によつた場合
・株主配当金を負債として計上し、取締役賞与金は負債として非計上



・株式(純資産価額計算において配当金のみが負債として計上されて評価されたもの)

・未収配当金(未収金銭債権)

・未収賞与金(未収金銭債権)


「仮決算基準」による場合には、既に株主総会で「配当金」「役員賞与」が確定しているので、株価計算においても負債として「配当金」「役員賞与」計上する。

「直前期末日基準」による場合には、3月31日現在で計算するので「役員賞与」は負債には計上できない。一方、「剰余金の配当」は、その配当基準日が3月31日なので、負債として計上できることになる。

「注」により、株価計算においては役員賞与は負債計上することは認められないのに、相続財産には「未収賞与金」として加算されるのは何故か


・税法では、原則として
「仮決算基準」によることを定めているので、「直前期末日基準」を選択した場合には、株価計算においては役員賞与の負債計上は認めないが、相続財産には「未収賞与金」として計上することを要求している。

・原則以外の評価方法を選択したのだから、つまり「仮決算」をせずに手を抜いて「直前期末日基準」を選択したのだから
「不利益を受けてもやむを得ない」、との考えに基づいている。



課税時期が4月10日の場合

***亡くなった日が株主総会前の場合***
課税時期
平成22年4月
10日
株式評価上の負債の取扱い A氏の相続財産の構成
仮決算基準によった場合
・株主配当金、取締役賞与金を負債として非計上




・株式(純資産価額計算において配当金及び賞与金が負債として計上されずに評価されたもの。ただし、
配当期待権の価額を減額調整した後の価額)

・配当期待権(株式に関する権利)

・未収賞与金
(注)
直前期末日基準によつた場合 同   上




同   上




・「配当金」「役員賞与」が確定したのは、5月25日なので、それ以前に亡くなっている場合には、どちらも負債として計上することはできない。

「配当金」「役員賞与」の確定は5月25日であり、被相続人が亡くなってから確定しているのに何故「役員賞与」についてだけは相続財産となるのか

「配当所得」は、利子、配当、不動産といった「資産性所得」、別名「不労所得」と言われるものであり、株主総会で確定した時点で本人は既に死亡しているので相続人に帰属する。従って、各相続人が「配当所得」として法定相続分に応じて確定申告することとなる。

・例え、後日の遺産分割協議書において配当に係る株式を相続する人が決まっていても、
「決まっている相続する人として申告するのではなく」「法定相続分で各相続人が所得税の準確定」をすることとなる。


「資産性所得」については、被相続人の死亡と同時に法定相続人に元本帰属する


・一方「役員賞与」は、「勤労性所得」と言われるものであるが、これは資産性所得と異なり本人が死亡しても相続人に移転しない。

・株主総会で確定した時点では本人がすでに存在しないので本人の所得にはならない。かといって相続人が「給与所得」として法定相続分に応じて確定申告することはしない。

・つまり
「役員賞与」については、所得税は「非課税」となる。


「役員賞与」については、所得税が非課税となる代わりに、相続財産に加えられることになる。

・これを
「課税技術上の相続財産」と呼んでいる。所得税が課税できないので、相続税でとる、と言う趣旨である。


***上記の参考条文***

相続税法基本通達3−32 (被相続人の死亡後確定した賞与)

・被相続人が受けるべきであった賞与の額が被相続人の死亡後確定したものは、法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等には該当しないで、本来の相続財産に属するものであるから留意する。

所得税基本通達9−17

・死亡した者に係る「給与等」、「公的年金等」、及び「退職手当等」で、その死亡後に到来するもののうち、相続税法の規定により相続税の課税価格計算の基礎に算入されるものについては、課税しないものとする。



 事     例  4

・ある会社の給与計算は、毎月20日締めの25日払いになっている。6月21日から7月20日までの給与は7月25日に支払われ、7月21日から8月20日までの給与は8月25日に支払われる。当会社の役員報酬を得ている役員甲が8月18日に死亡し、8月25日において甲の妻乙が役員報酬を受領した。
月額役員報酬は30万円であった。

・8月25日に受領した役員報酬の取扱いは、どうなるのか。

解              説


・役員報酬は、委任契約に基づいているので日割り計算ではなく、通常どおりの月額役員報酬を受領することとなる。

・8月25日に受領する役員報酬については、本人が死亡後に受領するので、
「相続財産となり所得税は非課税」となる。


  評価対象会社の保有している「非上場株式の評価」の時期

・評価会社の保有している
「非上場株式の評価」については、評価会社を直前期の決算をもとに評価する場合であっても、課税時期(被相続人の死亡日)の評価とする。

・当該非上場会社に係る配当期待権相当額については、課税時期において当該非上場会社の配当金交付の効力が発生しているとして、取引相場のない株式等の評価明細書第4表の
「比準価額の修正欄」で、比準価額から1株当たりの配当金額を控除したものと思われる。


・この比準価額の修正は、株式の価額の修正
(第3表の「株式の価額の修正」欄)ではありませんから、その見返りとして配当期待権を資産計上すべきである、という意見は成立しない。

・従って、この場合に評価会社に帰属する配当額相当の現預金あるいは未収配当金を直前期末の資産に加える必要はない。




 事     例  5

・評価対象会社は12月決算会社であり、「直前期末の資産及び負債」に基づき計算する方法により評価する。

・課税時期は、平成24年5月10日である。

・保有している非上場株式は、3月決算である。非上場会社は大会社に該当し、類似業種比準価額方式に基づき、課税時期の評価額は、「1株当たりの比準価額」から「1株当たりの配当金額」を控除して計算される。

・3月決算会社に係る配当期待権は、課税時期においては発生しているが、直前期末(平成23年12月31日)においては発生していないので、純資産価額の計算上、当該配当期待権は資産計上を要しないと考えてよいか。

解              説


・1株当たりの純資産価額を直前期末の資産及び負債の金額に基づき計算する場合に、3月決算に係る配当期待権は、課税時期においては発生しているが、直前期末には発生していないので、資産に計上する必要は無いと考えるかどうか。

1.確かに配当期待権は、直前期末である前年12月31日に発生していなければ、直前期末の資産にも計上されないので、資産に計上する必要は無い、という考え方もある。

2.一方、直前期末の資産に含まれているその配当期待権が発生している株式を
「課税時期において評価する場合」には、「配当落ち後の価額に修正する」ことになるので、その見返りとして、配当期待権を資産に計上すべきであるという意見もある。

***鬼塚太美の見解***

・上記1と2のいずれが正しいか明らかにされていない。後者方が理論的であるが、課税時期まで配当金交付の効力が発生してくる場合には、評価会社の課税時期における資産は、株式と配当期待権ではなく、株式と配当金額相当の現預金又は未収配当金ということになるが、この場合、通常はこの現預金又は未収配当金を直前期末の資産に加えるいとうようなことはしないので、それとの比較において
「配当期待権を資産計上しなくてもよい」、と考える。